感謝を込めて祈りを捧げる

風が強くもよく晴れた2月4日。熊瀬川区の行事「金光明最勝王経一字一石塔の会式」が執り行われた。

一字一石塔とは、石に一字ずつお経の文字を書写した「一字一石経」を土に埋め、その上に建てた碑のこと。大きな災害や飢饉、疫病などが起こった後に、慰霊や災難退治のため建てられることが多いものだそうだ。

当日は、両谷庵で準備を済ませた後、寺からほど近い小高い場所にある一字一石塔まで、供物を持って住職と共に歩いて向かう。読経ののち、住民の皆さんが線香をあげてお祈りをする。その後、寺の前まで戻り、もうひとつの石碑に祈りを捧げる。石碑には「法華経」と彫られ、見た所他に文字はない。どんな由来なのかわからないそうだ。そして最後に、両谷庵に戻り区の皆さんが焼香をあげる。

一通りのお祈りが済んだ後は、お茶と手作りのぜんざいでほっとひと息。やさしい甘みで、皆の緊張がふっとほぐれる瞬間だ。

一字一石塔の石碑には、「維時天保十四癸卯年三月」とある。「天保十四年」とは、1843年、江戸時代のこと。調べてみると、天保四年から十年まで有名な「天保の大飢饉」が起こっている。江戸四大飢饉に数えられる深刻な飢饉だったといわれ、ここ色川でも飢饉に苦しんだ人が大勢いたのかもしれない。

今は本当に幸せな時代で、よほどのことがない限り、飢えに苦しむことはない。このありがたさをつい忘れそうになるが、これは当たり前ではない。「今あること」への感謝を思い出す意味でも、年に1回お祈りを捧げることは、とても重要な意味を持つだろう。