水の神様に豊作を祈願

「まいどおおきによー」「元気にしよるかー?」
午前9時過ぎ、小高い丘の上に立つ小阪区の南泉寺に、住民がぽつりぽつりと集まり始めした。皆、坂道を歩いて上がって来ますが、杖をつきながらの人も多くいます。雨が降らなかったのが幸いです。–pagebreak–

6月10日は小阪区の斎講(ときこう)の日。住民が寺で稲の豊作を祈願します。

この伝統行事では、水の神様である八大竜王の名前を書き記した杉皮と、「風雨順調」「五穀成就」などと書かれたお札を甘竹に挿したもの、ギボシ(ギボウシ)の葉に包んだおにぎりをそれぞれ8個用意し、田んぼに引かれる水路の分かれ道に供えます。水が絶えないよう念じる意味があるといいます。

当日は早朝から寺総代の西浦正さんらが準備をして、円心寺の大橋正道住職と住民を迎えます。住職は到着すると杉皮に八大竜王の名を書き入れて本尊に供えました。

午前10時、集まった25人ほどの住民に、まず住職が「昨年は暑い夏で不作に苦労された。お参りしたご利益がなかったと思うのではなく、お参りしていなければもっとひどいことになっていたと思ってもらえたら。今年の夏はまたどうなるか分からないし、地震への不安もあると思うが、天変地異、自然のことは、人間の力では何とも致し方ない。今日は水の神様にお祈りするが、今年も水が絶えずに稲が育つように、そして災害にあわないように、強い気持ちを持ってお参りしていただけたら、ご利益があると信じている」と話しました。そして、住職が経を唱え、全員が焼香してお祈りしました。

また、この日は寺の近くにある寛政12年(1800年)建立の経塚の碑にもお参りします。住職が読経する中、一人一人線香をあげ、米を供え、シキミの枝葉で水をかけて手を合わせました。

参拝を終えると、寺に戻り、皆で酒を飲みます。昔話に花が咲くひと時でもあります。この日は中西忠治さんが斎講のときに「虫送り」もしたことを話してくれました。

「寺で拝んだ後は、竹でこしらえた目の荒いかごにだんご(おにぎり)を入れて、田の上からまくって転がした。かごには色紙で作った花をつけた」

今ではそれを覚えているお年寄りは数少なくなってしまい、その場にいた50~70代の人たちも「一回やって見せてもらわな分からんね」と言います。

中西さんは「人口が減り、若い人が減り、やる人がおらんようになって伝統的なものをこぼって(壊して)しまった」と寂しげに話しました。

一度途絶えたものを復活させるのは容易ではないですが、かつて小阪で行われていた虫送りをこの目で見てみたいと思いました。
(執筆:たき)

経塚に参拝する住民。昔から斎講の日は不思議と雨が降らないことが多いそうです

棚田の水路に供えられた杉皮、お札、おにぎり。住職にギボシの葉の訳を聞いてみると「水気のあるところに多く生えるので、水が絶えないようにという意味があるのでは」と教えてくれました