日本の固有種「クマノザクラ」を知ろう

 3月に入るころ、色川を囲む山々を見渡すと、桜がちらほら咲き始め、一足早い春の訪れを感じさせる。ヤマザクラだろうか?いや、もしかしたら、「クマノザクラ」かもしれない…。

 ご存じの方も多いかと思うが、クマノザクラは紀伊半島南部の限られた地域に昔から自生している桜の「種(しゅ:野生の植物を分類する基本の単位)」で、2018年に日本の野生の桜として約100年ぶりに発見された新種の桜である。ちなみに日本の桜の種は、ヤマザクラやエドヒガンなど10種しかなく、クマノザクラもそのうちの一つ(「染井吉野」や「河津桜」は、自然交雑もしくは人為的な交配で生まれた「栽培品種」であり、この10種には含まれない)。  クマノザクラの特徴は、一つの花芽に2個の花がつき、花柄が短く無毛。花弁は白~淡紅色で、先端が濃くなることもある。葉は卵型で細長く、周縁部の鋸歯(ギザギザ)が粗い。開花時期は、早い個体だと2月に咲き始める。古くから「熊野のヤマザクラは2度咲く」と言われてきたそうだが、そのうちの最初に咲く桜がクマノザクラというわけだ。

 そんなクマノザクラだが、花をつける母樹に比べて若木が少なく、将来的には大きく減少する可能性があるようだ。減少要因としては、若木の成長に必要な明るい林地の減少や、シカなどによる食害、オオシマザクラや「染井吉野」など外来の桜の影響(競合や淘汰、繁殖干渉、遺伝的攪乱など)が考えられるという。

 そのような中、ここ色川でもクマノザクラを育てている人がいる。口色川区の久保惠資さんだ。惠資さんは、自宅の裏山に自生しているクマノザクラからタネを採り、大きくなった苗数本を自分の土地に植えて育てている。「タネまいたけどなかなか芽が出ずに諦めかけていたら、何本か(芽が)出てきて。ゆくゆくは山の斜面地や休耕地などにも植えたい。生きているうちに花は見られんけどね」と笑いながら話す惠資さん。

 将来、惠資さんが植えたクマノザクラが咲き誇り、この山里に春の到来を告げるとともに、人々の心を豊かに彩ってくれることだろう。

(参考資料:(一社)日本クマノザクラの会『熊野から始まる春』、矢倉寛之『クマノザクラとクマノビト』)