2年ぶりの亥の子祭り

亥の子祭り

「こんばんは?亥の子祝います!」

雨上がりの夕暮れ、威勢のよい声が小阪の集落に響き、「亥の子祭り」の始まりを告げた。

百姓の神様をまつる亥の子祭りは、旧暦10月(亥の月)の亥の日に行われる伝統行事で、今年は11月22日に行われた。昨年は台風12号災害の影響で中止となったため、2年ぶりだ。

昔は色川の各集落で亥の子祭りが行われていたそうだが、今も続いているのは小阪のみ。

小阪では、「亥の子さん」に扮した青年グループが集落の1軒1軒を回り、枝葉のついた竹にわら束をくくりつけたものを、各家の玄関先で地面につきながら、亥の子の祝い歌を歌い、無病息災や子孫繁栄を祈る。歌い終わると、家主から酒や亥の子もち、祝儀をいただく。

また、百姓の家ではこの日、もちにゆで小豆を載せて、菊の花と一緒に納屋や農機具に供えるという。

今年の亥の子さんは8人のグループ1つ。昔は大勢で1つの集団が回ったが、全戸回るのに時間がかかるため、近年は2つのグループに分かれて回っていた。

しかし今年は人数がそろわず、1つのグループで全戸を回ることに。しかも8人のうち、地元小阪の住民は4人、残り半分は隣の集落などからだ。

午後5時半ごろ集会所を出発し、最初に向かったのが西浦勉さん宅。西浦さん夫妻と一緒に歌った後、酒や寿司をごちそうになりながら、昔の話を聞いた。

「昔は慰安がなかったから、これが楽しみやった。もちは重箱に9つ入れてあって、最初は全部もらうが、回っていくうちにだんだん重くなってくるから、そのうち半分だけもらう。しまいに皆でもちを分けるんや。小阪は青年会で回ったけど、ばあさんら女性だけで回ったこともあった」

「小阪でも6年間祭りが途切れたが、平成5年に復活させた。ただ、家族が減ってもちつくのが大変になってきて、代わりに祝儀を出すようになったんや。家もずいぶんと減ってきた」

小阪の青年会「美里会」の尾林康夫さんも「復活したころに比べたら寂しくなった。今年は回る家が19軒しかない」と言う。

とはいえ、1グループで歩いて回るため、すべての家を回り終わったのは9時半ごろ。後半は、酔いも回って、歌の拍子も足元も覚束ないが、家主と一緒に元気よく歌い、各家で喜ばれた。

「足痛なかったら一緒に回りたいよ」というお年寄りも多く、皆がこの祭りを楽しみにしていることがうかがえた。

若者が少なく、高齢化が進む中でも、何とか伝統を守り続けようとする小阪。亥の子歌を歌う住民たちの元気な歌声を聞いていると、どこよりも底力のある集落に思えてくる。