復活した除夜の鐘

除夜の鐘

「カーン・・・カーン・・・」

2012年の大晦日の夜、大野の集落に除夜の鐘が鳴り響き始めた。鐘は、集落を見晴らす山の上にある楞厳寺から打ち鳴らされている。

除夜の鐘とは、人が持つといわれる108つの煩悩を払い、新しい年を迎えるために、寺院で大晦日の夜に108回つく鐘のこと。色川地区でも昔は各集落の寺に住職がおり、除夜の鐘がつかれていたそうだが、今はもうつく人もなく、普段と変わらぬひっそりとした除夜である。

ところが、大野区で昨年、「除夜の鐘を復活させよう」という話が持ち上がった。

提案した原和男さんは「昔は除夜の鐘をついたという話をよく聞いていて、ずっと気になっていた。除夜の鐘をもう一度鳴らすことで、お年寄りが昔を思い出し、会話がはずんだり、なつかしい話が聞けたらいいなと思った。また、昔の行事を同じようにすることで、昔の人とのつながりをより強く感じることができる」と話す。

一体、何十年ぶりの除夜の鐘になるのか、昔ついたことがあるという田古良元昭さんに聞くと「昭和51年が最後ではないか」とのこと。田古良さんが初めて寺総代になった昭和49年から3年間、除夜の鐘をついたことが記録に残っている。

「豆を108つ用意して、数えながら鐘をついた。とにかく寒かったのをよう覚えている」

実に36年ぶりの除夜の鐘は、午後11時24分20秒に始まった。普段は人気のない楞厳寺にこうこうと明かりが灯り、大東利吉区長をはじめ、区民ら十数人が集まった。子どもや年末に帰省した若者もいる。

年が明ける深夜0時にちょうど108つ目がつき終わるように計算し、20秒ごとに交代で鐘をつく。昔式でやるということで、田古良さんが108つの豆を用意してくれた。

大人たちは酒を飲みつつ、子どもたちはお菓子を食べつつ、「次はだれがつくか」と言い合いながらにぎやかについていく。初めての除夜の鐘に、子どもはもちろん大人たちもうれしそうだ。

自宅で聞いていた田古良さんは「11時過ぎてもなかなか鳴らんので、一杯飲んで忘れてしもたんかなと思た(笑)。除夜の鐘をついてもろたら、集落が明るい感じになってええね。ぜひ続けてもらいたい」と喜ぶ。

鐘の音を久しぶりに聞いたお年寄りも、初めて耳にしたIターンも、どんな思いで新年を迎えただろうか。(たき)

108つ用意した豆を、鐘をつくたびに取り出す
除夜の鐘