桃の節句の菱もち作り

積み重ねられる時間の中で失われていくものと、守られていくものとがあります。ここ色川の「桃の節句」といえば、4月3日を指します。この日に合わせて、各家庭で菱形の節句もちを作り、お雛さまをはじめ、神棚や仏壇にもお供えします。
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その昔、牛が飼われていたころは、もちを牛にも食べさせました。牛は涙を流しながら食べたといわれますが、それはおいしいからではなく、この時期から田んぼで働かされるのを理解していたからだそうです。

もちをつく日の早朝、「男前に撮ってくれよ!」と笑いながら、おじいちゃんがかまどの前で火の番をしています。もち米はやはり、ガスより薪で蒸すほうがおいしいそうです。屋内ではおばあちゃんが、ゴトゴトと鳴くもちつき機の前で時計を気にしています。

若者が都会に流出し、過疎・高齢化が進み、もちのつき手を失った色川。一昔前なら、「ペッタンペッタン」という音と「ヨイショ!」のかけ声が、辺りをにぎわせていたであろう節句のもちつきも、時代とともに変化し、薪の代わりにガスが、臼や杵の代わりにもちつき機が登場しています。風情は失われつつあるかもしれないが、科学の進歩が支えている“文化”も否定はできません。

(執筆・とばやん)

かまどでもち米を蒸します

雛人形の前に供えられた菱もち。手前から、紅、あずき、くちなし、よもぎ、白の5色