大鏡院さんのお祭り

色川西部の坂足区では、毎年、旧暦3月15日に「大鏡院さん」の祭りが行われる。–pagebreak–

大鏡院は江戸時代の山伏僧といわれ、坂足の集落上部にまつられている。今は杉林に囲まれているが、かつては見晴らしがよかったそうだ。

今年の祭典日は4月5日。昔は20軒以上あった坂足区も、現在は2軒に減ってしまったが、祭りの日は坂足出身の元住民もお参りに来る。この日は9人が集まり、大鏡院に般若心経を唱えて平穏無事を祈願した。また、家族に厄年の者がいれば、あわせて厄払いの心経を唱え、厄餅をまく。

人数が少なくても、「餅ほり」は一番盛り上がる。
「1人50個は拾えるぞ」
期待に胸を膨らませながら、皆、大きな袋を広げて待ち構える。いざ始まると、わーわーと歓声をあげながら、目の前に落ちてくる餅を拾い集める。まだまだ餅が降ってくると思いつつも、終わればあっと言う間だ。「あー楽しかった」と息をつきながら、拾った餅を数えてみれば、70個もあった人も。

餅ほりの後は、大鏡院の石碑の前で車座になり、お供えしたお神酒や赤飯をいただく。「護符」といわれる赤飯は、皆で厄を分け持つという意味があるそうだ。また、いわれはわからなくなってしまったが、大鏡院に必ず唐辛子をお供えする。住民は「厄除けの意味があるのでは」と言う。

「今年はうるう年で、旧の3月15日が2回あるから、どっちの日に(祭りを)やるんか分からんかった」
そんな話をしながら、しばし歓談する。ふと見上げれば、石碑に木漏れ日が降り注ぎ、まるで大鏡院さんも話に耳を傾けているようだ。周辺の集落からも大勢来て、出店もあったという昔のにぎわいは失われたが、今年も無事に祭りが行われたことを喜んでいる気がした。

「坂足がいつまでも置いてもらえますように」
住民の祈りが胸に響く。たとえ2軒になっても、生まれ育ったふるさとの永続を願う思いは誰もが同じだ。1軒は、昨年の台風12号による山崩れで道路が不通になっても自分たちで歩道を直し、住み続けている。

干ばつや流行り病のときも坂足を守ってくれたという大鏡院さん。集落のともし火も守ってくれると信じたい。(たき)