秋の豊作を祈願

幾重にも連なる棚田で、まだ小さな苗が風にそよぐ初夏の小阪区。龍興山南泉寺から、住職の厳かな声が聞こえてきます。毎年6月10日、小阪区の住民が田植え後に稲の豊作を祈る斎講(ときこう)が、今年も行われました。
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この伝統行事では、水の神様である八大竜王の名前を書き記した杉皮と、「風雨順調」「五穀成就」などと書かれたお札を甘竹に挿したもの、ギボシの葉に包まれたおにぎりをそれぞれ8個用意し、田んぼに引かれる水路の分かれ道に供えます。水が絶えないよう念じる意味があるそうです。

寺役の西浦正さん・育子さん、中西信枝さん、大前正直さんの4人が、前日に寺を掃除し、杉皮や甘竹、ギボシの葉を集め、当日は朝からお札やお供え物を準備して、万鏡山円心寺の大橋正道住職と住民を迎えました。住職は、杉皮に竜王の名を書き入れて、それらを本尊に供え、経を唱えた後、「自然のことは人間の力が及ばないので、祈るしかない。異常気象といわれているが、実りある秋を迎えられるよう祈り、『祈ったから大丈夫、よい1年になる』と前向きに明るく過ごしてほしい」と住民に話しました。

その後、寛政12年(1800年)建立の経塚の碑にお参りし、寺に戻って、皆で酒を酌み交わす。「ようけ飲むほど、豊作になるらしいぞ」という言葉に、笑い声が上がりました。

「昔は6月入ってから田植えしたから、斎講も遅かったね」「昔は虫送りもしたよ」「若い衆は年寄りから『酒飲みよらんと田に水ために行け』と言われた」。お年寄りからそんな思い出話を聞きながら、時代の流れとともに農業や伝統が変わっていくとしても、住民が皆で、無事に田植えが終わったことに感謝し、豊作を祈る行事が受け継がれていってほしいと願いました。
(執筆:たき)

寺に集まり、豊作を祈る小阪区の住民

寛政12年(1800年)建立の経塚の碑にお参りします

田んぼへの水路に供えられた杉皮やお札